化粧品業界から米農家に
アメリカの大学を卒業したあと日本に戻り、2011年から化粧品会社に勤務していました。美容を知るうちに、体の内側から健康や美にアプローチする「インナービューティー」に出会い「食べ物こそ美容」ということを知り、一生をかけて携わりたいと心を揺さぶられました。実家が兼業農家だったこともあり、農業を仕事にしようと一念発起。両親には「農家を何も知らない者にできるわけがない」と猛反対されましたが、「美容にいい米を作りたい」と決意して、小諸にUターンしました。ベテランの米農家でお米づくりのノウハウを学び、1年半後の2017年に小諸市内の複数箇所に田んぼを借り、有機栽培でお米と野菜作りを始めました。 有機農業なので雑草や害虫駆除に手間がかかり、1年目は管理が追いつかず田んぼには雑草が生え、お米は動物に食べられてしまうなど苦労しました。2年目は反省を踏まえて対策を練りましたが、天気や環境の変化に対応できず、うまくいきませんでした。そんな時、自分の田んぼの雑草が刈ってあったり、いつの間にか水が張られていたり、知らぬ間に「ついでだから」と地域の人が手助けしてくださいました。農業は助け合い、周りの人と協力し合って成り立っていることに気づき、考えがガラリと変わりました。自分が作りたい米を作るだけでなく、地域の方への恩返しも自分のするべきことだと気づかされました。
食味分析コンクールで入賞
米作りを始めてから2年後の2019年、米食味分析鑑定コンクールでミルキークイーンが特別優秀賞を受賞。2023年にはミルキークイーン、24年はいのちの壱、25年はこしひかりが「料理王国100選」に入賞しました。農薬や化学肥料を使わない自然農法で、栄養のある雑草をあえて田んぼに生やして肥料にするなど、生き物が生息しやすい環境を作り、お米を育てています。
こだわりの根底にあるのは農業との向き合い方。地域のためにやるという気持ちが生き物との向き合い方につながり、美味しさにつながっているのだと思います。
宇坪入りの棚田を開墾
地域に恩返しがしたいという思いから、2022年から小諸市菱野区にある「宇坪入りの棚田」の開墾を始めました。日本の棚田百選にも選ばれている美しい棚田ですが、耕作放棄で荒廃が進んでいたため、美しい風景を再生するために「棚田開墾の会」を設立しました。開墾の過程をユーチューブやフェイスブックで紹介したところ、県内外から「興味がある、手伝いたい」と反響があり、今は様々な人が集う場所になりました。 米作りだけではなく、誰もが集い遊び楽しめる場所にしようと様々な取り組みを行っています。佐久長聖高校クイズ研究会の生徒と一緒にソルガムを育て植物迷路を作り、夏休み期間に子どもたちが体験できるようにしたり、県内の大学生と共に「棚田DE写真展」を開催するなど、学生の力が社会で発揮され、活動を通して成長していく姿を見るのも楽しいです。いずれはグリーンツーリズムができる場所として、より多くの人が集まる観光地のようになれば良いと思っています。
しみず ひろと 1987年小諸市滝原生まれ 長野県上田東高等学校から米オクラホマ州の大学に進学し帰国 化粧品会社勤務を経て、2017年に小諸に戻り米作りをはじめる 2019年第21回米・食味分析鑑定コンクール国際大会特別優秀賞 2023年から3年連続で「料理王国100選」に入賞 「宇坪入りの棚田」を開墾、再生した「みんなの遊びの森」を起点に様々なイベントを開催している